産科・繁殖診療について
「産科・繁殖診療」の考え方と取り組み
動物も決して安産ではありません
院長は、産科・繁殖分野の診療、治療には大学在籍中から研究、治療を専門的に行ってきており2000件以上の症例を解決しています。
産科においては、受精~分娩まで様々な問題が起こります。
また、分娩に関しては人間の場合助産師といった専門職があるぐらいですが動物の場合は未だそういった学問的な機関が存在しません。
特に、助産に関しては獣医学でもほとんど触れられて折おらず長年の経験による技術のみで行われています。大多数の病院では、助産で分娩可能でも第一に帝王切開を選択します。帝王切開は当院でももちろん実施しておりますが、手術せずに出産できるに超したことはありません。
助産について
難産(分娩異常)は病気ではありません。出産時におけるアクシデントという扱いですので助産の解決法となると帝王切開の選択が一番簡単(技術的、経験的に単純な手術というわけでは無く、手段としての伝達、伝承の面から見て簡単)ですが、助産となるとなかなか体系化できてないのです。
異常分娩の原因として、産道が狭い場合、胎仔(たいし)の異常位置(逆位’いわゆる逆子’や、へその緒が絡まったり、頭部がずれて出てくるなど)があります。産道が狭い場合は、帝王切開の可能性が高いですが、胎仔(たいし)異常の場合は助産(人間では機械分娩がありますが、獣医界では手を用いる助産がほとんどです)なお、異常分娩は事前の妊娠診断、胎仔の状態検査等が非常に重要ですので少なくとも分娩予定日の10日以上前には必ずご来院下さい。
帝王切開以外の助産について
帝王切開以外の異常分娩対策
・胎位(たいい)異常による難産
産道において犬・猫も通常頭から出産されます。頭が産道を通過するときに破水し、これが潤滑液となってなめらかに通過し通常出産されます。しかし破水が早すぎたり、遅すぎたりした場合は上手く出産されずに途中でつっかえてしますことがあります。また、足から産出さるいわゆる’逆子’状態や、前肢から出てきたりする場合も途中で止まってしますことがあります。
その場合介助して分娩するわけですが、そのまま引っ張っていく場合や、一旦子宮内に戻し本来の正常位である頭から出るように体位を調整したりして助産します。
交配適期の診断
犬の発情周期は一年におおよそ2回あります。良く、半年ごとに発情がくるといわれていますが個体差があり早い個体で4ヶ月、遅い個体になると16ヶ月ぐらいまで延期されることもあります。これは、卵巣が黄体期を迎え、黄体が退行して発情周期が繰り返されるのですが、犬の場合この黄体期が非常に長くおおよそ平均で6ヶ月かかるわけです。
しかも、発情期で排卵されるのは1回きりで交配に適した期間もわずか2日程度と限られています。
そのため、交配に適した時期(排卵日)を推測することが受精率を高めることにつながります。排卵日の推測はいろいろありますが、現在多くの動物病院では黄体から出るプロジェステロン(黄体ホルモン)を測定することで判断しています。ただ、この測定は複数測定する必要がある上にコストもかかりますので当院では、主に子宮内膜のスメア検査にて診断しています。
子宮内膜のスメア検査
この検査はおそらく50年以上前から実施されていると思います。獣医学の教科書にも必ず載っている基本的な検査です。非常に安価で最も信憑性の高い検査でこれに勝る検査はおそらく無いと言ってもいいでしょう。
ではなぜどこの病院も実施していないかというと、この検査は雌犬の外陰部や性的反応の微妙な変化、スメア検査を顕微鏡下で確認して総合的に判断するもので、かなりの症例数の経験からのみ得ることができるからだと思います。私自身、大学の研究室にいたころ3万件程度スメア検査を実施し、それに伴いプロジェステロン測定、エストロジェン測定を並行して測定した結果確かな結果を得ることができるようになりました。
知り合いの動物病院からも結構依頼が来ることもあります。お悩みの方は、是非とも御連絡下さい。
人工授精や妊娠障害など
交配時に、雄犬がどうしても交配意欲がわかなかったり交配使用としても上手く挿入できなかったりすることも珍しくありません。
当院では、病院内にて人工受精も行っております。
また、なかなか妊娠しない仔の相談もお受けしますので、お気軽に御連絡下さい。
胎位と助産の意義
多胎動物(犬や猫など)は、牛や馬などの単胎(たんたい)動物(人もこちらに分類されます)とは子宮の構造、胎仔(たいし)数が全く異なります。胎仔(たいし)の数が多すぎても少なすぎても自然に分娩できないことがあります。また、骨盤腔(こつばんくう)という骨盤の中央に空いている穴に子宮体部が通っていますが、胎仔の頭が大きすぎたり陣痛が弱いと骨盤腔を通過できず分娩異常を引き起こします。
当院では、産科にも力を入れていますが難産に対しての予備知識、事前検査が非常に重要です。
できるだけ正確に交配日を記録、交配後25日程度での妊娠診断、交配後55日程度での産道検査は必ず行うようにしましょう。
いかに、胎仔の子宮内での位置(胎位)の一例を挙げます。実際は、10種類程度の異常胎位があり、それぞれに助産の方法が異なります。
正常位における注意点
正常位
正常な胎位(たいい)です。骨盤腔が胎仔の頭部より広く、陣痛が力強く起きれば通常は自力で産出されます。
ただし、会陰部と呼ばれる胎仔が最後に出てくる場所が狭い場合などは会陰切開などが必要な場合もあります。また、血中カルシウム低下や、血糖値の低下などが原因で微弱な陣痛しか来ない場合は、助産処置が必要です。
垂直胎位逆転
正常は頭頂部が母体の背中側にありますが、このケースは頭頂部が母体の腹部側にある異常位です。
条件によっては、自力で分娩されます。この胎位(たいい)の問題点は、頭頂部が骨盤腔(こつばんくう)手前に沈み込んでしまい、いくら陣痛が起きても産出力の方向がずれてしまいうまく出ないことです。
助産では、腹部より解除し頭部を骨盤腔(こつばんくう)へと導いてあげることが重要です。
逆位
俗にいう逆子(さかご)です。異常胎位(たいい)では頻度が高いものですが、骨盤腔(こつばんくう)が充分に広ければ腹部より介助して両後肢を同時にけん引するように引っ張っていきます。ある程度母体が大きい場合は、子宮腔内で胎位(たいい)を回転させて正常位に変位させて分娩させる場合もあります。
肩甲位
正常位の状態から頭部が後ろを向いてしまった場合に起きる胎位(たいい)です。このまま強い陣痛が起こると頚部が圧迫されて窒息してしまう場合もあり非常に危険度の高い胎位(たいい)です。
外陰部より前肢(ぜんし)が出ていても無理やりけん引すると胎仔(たいし)の生命が危ぶまれます。この場合は、一旦胎仔(たいし)を押し戻して、腹部より介助し頭部を正常の位置に修正して助産します。